平成29年度宅建士試験に関する法改正

宅建士試験に向けて勉強をしていると、気になってくるのが、法改正です。
例年、試験において根拠となる法令は、その年の4月1日現在の施行法令に基づきます。
今年も、宅建業法、法令上の制限、税法の分野で平成29年4月1日までに施行される改正がありました。
そこで、試験で出題されてもよさそうなものをピックアップしてみました!


宅建業法に関する法改正

宅建業法の分野に関して、平成28年5月27日に成立(公布、同年6月3日)した宅建業法改正(平成28年6月3日法律第56号)のうち、下記については、平成29年4月1日から施行されました。
営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅建業者を除外する
宅建業の業務を適正化・効率化する
従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務を課す
といったものです。
以下、順に見て行きましょう!


①営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅建業者を除外する改正について


まずは、①に関して、見ていきましょう。
従来は、制度を熟知する宅建業者がいち早く還付請求を行う等、消費者が十分な救済を受けられないことがありました。そこで、宅建業者が還付を受ける権利を制限し、消費者の救済を確実にしようというのがこの改正です。
以下、具体的に見ていきましょう!


・営業保証金の還付について規定する宅建業法27条の改正

最初は、営業保証金に関する改正です。

改正前は、宅建業者と宅建業に関し取引をした者であれば、その者が宅建業者に該当する者『であっても』、その取引により生じた債権に関し、宅建業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受けることができました。

改正により、宅建業者と宅建業に関し取引をした者が、『宅建業者に該当する者である場合』には、その者は、営業保証金について、その債権の弁済を受けることができなくなりました。


・弁済業務保証金の還付について規定する宅建業法64条の8の改正

上記と同趣旨の改正が弁済業務保証金についてもされました。

改正前は、宅地建物取引業保証協会の社員と宅建業に関し取引をした者は、その者が宅建業者に該当する者『であっても』、その取引により生じた債権に関し、原則として、法25条2項の政令で定める営業保証金の額に相当する額の範囲内において、当該保証協会が供託した弁済業務保証金について、国土交通大臣の指定する弁済業務開始日以後、弁済を受けることができました。

改正により、保証協会の社員と宅建業に関して取引をした者が、『宅建業者に該当する者である場合』には、その者は、弁済業務保証金について、弁済を受けることができなくなりました。


・保証協会の弁済業務について規定する宅建業法64条の3第1項3号の改正

上記の改正に伴い、保証協会の業務の内容も変更されました。

改正前は、保証協会の社員と宅建業に関し取引をした者が、宅建業者に該当する者『であるか否かにかかわらず』、その者の有するその取引により生じた債権に関し弁済をする業務(弁済業務)は、保証協会の業務でした。

改正により、保証協会の社員と宅建業に関し取引をした者が『宅建業者に該当する者である場合』には、弁済業務は、保証協会の業務ではないこととなりました。


・供託所等に関する説明について規定する宅建業法35条の2の改正

また、弁済対象者から宅建業者に該当する者を除外することに伴い、下記の改正がされました。

改正前は、宅建業者は、宅建業者の相手方等が宅建業者に該当する者『であるか否かにかかわらず』、相手方等に対して、当該売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、営業保証金・弁済業務保証金の供託に関する一定の事項について説明をしなければなりませんでした。

改正により、宅建業者は、相手方等が『宅建業者に該当する者である場合』には、その説明をする必要はないこととなりました。


②宅建業の業務を適正化・効率化する改正について

これには、重要事項説明、媒介契約、従業者名簿についての改正があります。
以下、具体的に見ていきましょう!

・重要事項の説明について規定する宅建業法35条1項・2項について、宅建業法35条6項・7項の新設

改正前は、宅建業者は、宅地又は建物の取得者又は借主となる者が、宅建業者であるか否かにかかわらず、宅建士をして重要事項の説明をさせる必要がありました。改正により、宅地又は建物の取得者又は借主となる者が宅建業者である場合には、宅建士をして重要事項の説明をさせる必要がないこととなりました。

もっとも、宅建業者は、宅地又は建物に係る信託(当該宅建業者を委託者とするものに限る。)の受益権の売主となる場合における売買の相手方に対して、その者が取得しようとしている信託の受益権に係る信託財産である宅地又は建物に関して、宅建士をして重要事項の説明をさせなければならないのが原則である点については、相手方が宅建業者であるか否かにかかわらず説明をしなければならないことに変わりはありません。

また、重要事項を記載した書面を交付し、かつ、宅建士による記名押印が必要な点は、変わりません。

なお、宅地又は建物の割賦販売の場合にも同様の改正がされました。


・媒介契約について規定する宅建業法34条の2第8項の改正

改正前においても、専任媒介契約を締結した宅建業者は、依頼者に対し、当該専任媒介契約に係る業務の処理状況を2週間に1回以上(専属専任媒介契約では、1週間に1回以上)報告しなければならず、また、これに反する特約は無効でした。

改正では、上記に関して維持された上、新たに、媒介契約を締結した宅建業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならないこととなりました。また、これに反する特約は無効となりました。


・従業者名簿について規定する宅建業法48条3項の改正

宅建業者は、国土交通省令で定めるところにより、その事務所ごとに、従業者名簿を備えなければなりません。

そして、改正前は、従業者の住所は、従業者名簿の記載事項とされていましたが、改正により、従業者名簿の記載事項とはされないこととなりました。


③従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務を課す改正について

これには、研修の実施、研修の実施に要する費用の助成業務に関する改正があります。
以下、具体的に見ていきましょう!


・宅建業者を社員とする一般社団法人による体系的な研修の実施について規定する宅建業法75条の2の新設

改正により、新たに、宅建業者を直接又は間接の社員とする一般社団法人(いわゆる事業者団体・業界団体)は、宅建士等がその職務に関し必要な知識及び能力を効果的かつ効率的に習得できるよう、法令、金融その他の多様な分野に係る体系的な研修を実施するよう努めなければならないこととなりました。


・保証協会の業務のうち、研修の実施に要する費用の助成業務について規定する宅建業法64条の3第2項3号の新設

改正前は、全国の宅建業者を直接又は間接の社員とする一般社団法人による宅建士等に対する研修の実施に要する費用の助成は、保証協会の業務に含まれていませんでした。
改正により、保証協会の業務に含まれることとなりました


法令上の制限に関する法改正


次に、法令上の制限については、建築基準法の改正があります。
①ナイトクラブの用途制限
②特殊建物等の定期調査等・報告の対象
の2つについて見て行きましょう。

①ナイトクラブの用途制限に関する改正について

ナイトクラブは、用途地域の指定がある場合、改正前においては、商業地域・準工業地域に限って建築可能でしたが、改正により、これらに加え、準住居地域(用途に供する部分の床面積が200㎡未満)・近隣商業地域でも建築可能となりました。

②特殊建物等の定期調査等・報告の対象の改正について


まず、改正前は、地域の実情に応じ、特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体)が定期報告の対象を定めていました。
改正により、安全上、防火上又は衛生上特に重要である建築物等は、政令により一律に定期報告の対象となり、それ以外の建造物等は、特定行政庁が地域の実情に応じた指定を行うこととなりました。

次に、調査・検査を行う資格者制度が見直されました。調査・検査資格が法に位置づけられ、国が、資格者に、資格者証の交付・調査等に関して不誠実な行為をしたときなどの資格者証の返納命令等を行うこととなりました。
また、防火設備について、防火設備検査員が検査を行う仕組みが導入されました。これに伴い、従来の特殊建築物等調査資格者は、その業務範囲から防火設備の設置状況の確認が除かれ、名称も特定検査物調査員と改められました。


-対象建築物等の違い-

改正前

特定行政庁が指定する・・・・・・
①建築物
②建築設備
③昇降機等

改正後

又は特定行政庁が指定する・・・
①建築物
②建築設備
③昇降機等
防火設備


-資格者の違い-

改正前

専門技術を有する資格者
・1級建築士
・2級建築士
・法定講習の修了者
〔特殊建築物等調査資格者
 昇降機検査資格者
 建築設備検査資格者〕

改正後

専門技術を有する資格者
・1級建築士
・2級建築士
・法定講習の修了者で国土交通大臣から資格者証の交付を受けた者
〔特定建築物調査員
 防火設備検査員
 昇降機等検査員
 建築設備検査員〕

税法に関する法改正


税法に関する法改正は、①所得税についての住宅の耐久性向上改修工事に係る措置の創設、②特例の適用期限延長、③タワーマンションに対する固定資産税・都市計画税の見直し、④固定資産税の税額減額措置の拡充などがあります。
もっとも、宅建業法の改正に力を入れる必要がありますので、ここでは、①の説明にとどめます。


所得税~住宅の耐久性向上改修工事に係る措置の創設(租特法41条の3の2、41条の19の3)

まず、特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(住宅ローン控除)の控除額に係る特例について、適用対象となる工事に、特定断熱改修工事等と併せて行う特定耐久性向上改修工事等が追加されました。

また、既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除について、適用対象となる工事に耐久性向上改修工事等で住宅耐震改修又は一般断熱改修工事等と併せて行うものが追加されました。

※特定耐久性向上改修工事等、耐久性向上改修工事等について
ⅰ 小屋裏、外壁、浴室・脱衣室、土台・軸組等、床下、基礎若しくは地盤に関する劣化対策工事又はⅱ給排水管・給湯管に関する維持管理・更新を容易にするための工事で、認定を受けた長期優良住宅建築等計画に基づくものであることなど一定の要件を満たすものをいいます。